映画『夏の砂の上』を観た

オダギリジョー演じる主人公の小浦治は、勤めていた造船所がつぶれたのち仕事をしていない。
最初はオダギリのあの都会的でカッコいい長髪が、長崎で造船所に勤めていたというキャラクターと合致せず戸惑ったが、やがてドラマに引き込まれ、「長髪も無職がゆえか…」などと思えてくるのだから不思議なものだ。

<ストーリー>
雨が一滴も降らない、からからに乾いた夏の長崎。
幼い息子を亡くした喪失感から、幽霊のように坂の多い街を漂う小浦治(オダギリジョー)。
妻の恵子(松たか子)とは、別居中だ。
この狭い町では、元同僚の陣野(森山直太朗)と恵子の関係に気づかないふりをするのも難しい。
働いていた造船所が潰れてから、新しい職に就く気にもならずふらふらしている治の前に、妹・阿佐子(満島ひかり)が、17歳の娘・優子(髙石あかり)を連れて訪ねてくる。
おいしい儲け話にのせられた阿佐子は、1人で博多の男の元へ行くためしばらく優子を預かってくれという。
こうして突然、治と姪の優子との同居生活がはじまることに……。
高校へ行かずアルバイトをはじめた優子は、そこで働く先輩の立山(高橋文哉)と親しくなる。
懸命に父親代わりをつとめようとする治との二人の生活に馴染んできたある日、優子は、家を訪れた恵子が治と言い争いをする現場に鉢合わせてしまう……。

私は、この映画自体は好きだ。
でも、わかりやすくカタルシスがあるわけではない。
最終的に、息子の死を乗り越えて小浦が成長するとか、小浦と優子がどうかなるとか、そういう話ではない。
長崎の話であるが、長崎らしい美しい景色が目白押しとか、そういう話でもない。
そして、小浦が目に見えて報われるわけでもない。
それでも、なんとなく切なくて愛おしいキャラクターであり、それをオダギリジョーがうまく演じている。

この映画には、芸達者な役者が揃っている。
オダギリジョー、松たか子はもちろん素晴らしい。
長崎の方言も完璧に思えるほど、潰れた造船所の街の話としてスッと入ってくる。
今注目の高石あかりもすごくいい。
ものすごく不良というわけでもないが、鬱々とした内面を持った少女の役をうまく演じていたように思う。

そして、森山直太朗が演技が上手いのに驚いた。
バラエティなどで見る、とぼけたキャラクターを演じる能力はわかっていたけれど、こんなに芸達者だったとは。
大女優 松たか子の愛人?役を堂々と演じているのだから、たいしたもんだ。

なんとなくブログを書いていて思ったが、やはり大きな展開がない(正確に言うと、人が死んだり、色々あるにはあるのだが)このストーリーを、映画たらしめているのは役者の力量だろう。
書いていて出てくるのは、役者の褒め言葉ばかり。
とはいえ、「いい映画」であるとは、はっきり書いておきたい。
まあ、そんな映画だ。