映画『海辺へ行く道』

『ジャーマン+雨』の横浜聡子監督作品である。
最近は、優秀な女性監督も増えたので、ちょっと懐かしい気さえする。
いわゆる、典型的なミニシアター系映画と言っていいだろう。

<ストーリー>
瀬戸内海の海辺の町でのんきに暮らす14歳の美術部員・奏介。この町はアーティスト移住支援を掲げ、あやしげなアーティストたちが往来している。奏介とその仲間たちは、演劇部に依頼された絵を描いたり、新聞部の取材を手伝ったりと、忙しい夏休みを送っていた。そんな中、奏介たちにちょっと不思議な依頼が飛び込んでくる。

前述したが、彼女は2007年の『ジャーマン+雨』で一躍注目を浴び、地方都市に生きる人々の孤独や閉塞感をユーモラスかつ鋭い視点で切り取ってきた。
以後、『ウルトラミラクルラブストーリー』では松山ケンイチの奇妙な演技を引き出し、映画祭でも高い評価を受けた。
横浜監督の作品には、日常の中に潜む違和感や歪みを可視化するセンスがある。
登場人物たちはどこか不器用で、ぎこちなく世界と関わっていく。
その佇まいが観客に強烈な余韻を残すのだ。

今回の『海辺へ行く道』でも、その特質は健在だ。
都会から離れた海辺の町を舞台に、そこで交差する人々の感情が淡々と描かれる。
カメラは過剰な演出を避け(ていうか、なぜ4:3なのか?)、風景や空気をそのまま写し取るかのように長回しを多用する。
横浜監督は、物語を大仰に仕立てるよりも、時間の流れや人物の呼吸に寄り添うことを優先する。
結果として、観客はスクリーンの中に自分の生活を重ね合わせ、独特の共鳴を覚える。

興味深いのは、本作に集まったキャストの顔ぶれだ。
麻生久美子、高良健吾、剛力彩芽、宮藤官九郎といった豪華な俳優陣が揃うのは、やはり横浜聡子という監督に惹かれるものがあるからだろう。
商業映画のスケールで考えれば、横浜作品は派手さに欠けるかもしれない。
しかし、俳優たちは彼女の現場にこそ自分の新しい顔を見つけられると知っているのではないか。
演技の表層を削ぎ落とし、役者自身の奥底に眠るリアリティを引き出す力量が横浜監督にはある。
その結果、観客もまた、よく知っている俳優のはずなのに、スクリーンの中で全く新鮮な存在として出会うことになる。

個人的には、あれだけ海辺の美しい町でロケするのであれば、4:3のアナログっぽい滲んだ画ではなく、もっと光が美しいルックにするべきだったのではないか。
などと考えるのも、余計なお世話か…。
それほどミニシアターらしい、ある意味作家性の強い作品であった。