映画『マキシーン』をアマプラで観た

観ようと思ってたが、結局タイミングが合わずに劇場で観れなかった『マキシーン』をAmazon Primeで観ることができた。

<ストーリー>
テキサスで起きた凄惨な殺人事件の現場から、マキシーンがただひとり生き残ってから6年が過ぎた。
ポルノ女優として人気を獲得した彼女は、新作ホラー映画の主演の座をつかみハリウッドスターへの夢を実現させようとしていた。
その頃ハリウッドでは連続殺人鬼ナイト・ストーカーの凶行が連日ニュースで報道されており、マキシーンの周囲でも次々と女優仲間が殺されていく。
やがてマキシーンの前に、6年前の事件を知る何者かが近づき……。

脚本(ストーリー)は、もしかしたら、山村美紗サスペンスの二時間ドラマと大差ないかもしれない。
しかし、『セント・エルモス・ファイヤー』、フランキー・ゴーズ・ハリウッド等1980年代カルチャーや、当時のハリウッドの空気感を纏ったこの映画は、私にとっては懐古的でいて、やはり何とも言えずカッコいいのだ。

監督タイ・ウェストは、ホラーというジャンルの枠を借りながらも、80年代アメリカの「夢」と「悪夢」を見事に融合させた。
そこには血と恐怖だけでなく、時代の匂い、憧れ、そしてスクリーンに生きようとする人々の切実さが漂っている。

ミア・ゴス演じるマキシーンは、ただのホラー映画のヒロインではない。
彼女は、名声を求め、己の存在を証明するためにハリウッドを生き抜こうとする野心の象徴だ。
光と闇が同居するその表情は、80年代の華やかさの裏に潜む孤独と焦燥を映し出している。
カメラが彼女を捉えるたびに、観客はその危うい魅力に引き込まれてしまう。
彼女の強さは、超自然的な恐怖に立ち向かうヒロインとしてだけでなく、夢に裏切られながらもなお夢を追う「人間」としての強さでもある。

そして何より、この映画の映像が素晴らしい。
ネオンカラーに照らされた夜の街、VHS的なざらつきを残した映像、そしてシンセサイザーが響くサウンドトラック。
どれも80年代カルチャーへの愛に満ちているが、単なる懐古趣味では終わっていない。
タイ・ウェストは「過去を模倣」するのではなく、「過去を現在に蘇らせる」ことに成功しているのだ。
画面の端々に漂う退廃とエネルギーが、今の時代にはもう存在しない「映画の夢」を再び呼び起こしてくれる。

また、マキシーンというキャラクターの描かれ方にも、現代的な視点が潜んでいる。
彼女は男たちの視線に晒されながらも、その視線を逆手に取って、自らの物語を作り出していく。
被害者でありながら支配者、崩壊と再生の狭間に立つ女性像。
そのアンビバレンスが、ホラー映画というジャンルに深みを与えている。
ミア・ゴスの演技は鬼気迫るものがあり、無垢さと狂気、欲望と恐怖の境界を絶妙に行き来する。
もはや彼女は単なる俳優ではなく、ホラーというジャンルを変革する存在になりつつある。

加えて、タイ・ウェストの演出は静かでありながら緻密だ。
派手な恐怖演出に頼ることなく、構図と間の取り方で観客を不安にさせる。
その手際の見事さは、かつてのブライアン・デ・パルマやジョン・カーペンターを思わせる。
血しぶきよりも、沈黙と視線に宿る恐怖。それこそがこの映画の本質であり、そこにこそタイ・ウェストの美学がある。

この作品は、『X エックス』『Pearl パール』から続く三部作の最終章らしい。
正直、ホラー作品は好きではないのだが、前の二作品もぜひ観たいと思える良作であった。