映画『レンタル・ファミリー』
傑作です。この監督は素晴らしい。
<ストーリー>
かつて歯磨き粉のCMで一世を風靡したものの、近頃は世間から忘れ去られつつあるアメリカ人俳優フィリップ。
俳優業を細々と続けながら東京で暮らし、すっかり街になじんでいた。
そんなある日、フィリップはレンタル・ファミリー会社を経営する多田から仕事を依頼される。
レンタル・ファミリーとは、依頼人にとって大切な「家族」のような役割を演じることで報酬を得る仕事。
最初のうちは、他人の人生に深く関わることに戸惑うフィリップだったが、仕事を通して出会った人々と交流していくうちに、いつしか彼自身の心にも変化が起こりはじめる…。
映画『レンタル・ファミリー』を観終わって、まず「本当にいい映画」だし「素晴らしい監督(なのだろう)」、そう感じた。
近年の映画には、映像や設定のアイデアは面白いのに、どこか脚本が弱く、途中で物語の説得力が失われてしまう作品も少なくない。
しかしこの作品は違う。物語が始まってからラストまで、観客を惹きつける力が途切れない。
まさに映画としての完成度が高い一本だった。
物語の設定は、いわゆる“レンタル家族”という少し奇妙なビジネスを軸に展開していく。
しかし、その設定が単なるアイデアに終わらず、人間ドラマとしてしっかりと機能しているところが見事だ。
疑似的な家族という関係の中で、人はどこまで他人であり、どこからが本当の感情なのか。そんなテーマが、決して押しつけがましくなく、自然に物語の中で描かれていく。
そして特筆すべきなのは、脚本の完成度である。
ストーリーとして破綻している部分がほとんどなく、物語の流れがとても滑らかだ。
人物の行動にも無理がなく、それぞれのキャラクターの感情がきちんと積み上げられている。
だからこそ観客は、登場人物の心の変化を自然に受け入れることができる。
映画を観ていて「ここは少し強引だな」と感じる瞬間がほとんどなく、終始おもしろく観ることができた。
役者陣の演技も非常に素晴らしい。
登場人物それぞれがしっかりとした存在感を持ち、まるで本当にその世界に生きている人物のように感じられる。
特に感情の細やかな揺れを表現する場面では、役者の力量の高さがよく伝わってきた。
ただし、それは単に役者の力だけではないだろう。
やはりそこには監督の演出力がある。
役者の魅力を引き出し、人物の感情を丁寧に映像に落とし込む手腕は見事で、映画全体に安定したトーンを与えている。
演技、脚本、演出がしっかりとかみ合っているからこそ、この作品はこれほど完成度の高い映画になっているのだと思う。
(個人的には、森田望智の結婚式場でのキスシーンは良かった。それまでモヤっとしていたものもあったが、すべて腑に落ちた瞬間だった)
ロケーションも印象的だった。
天草の風景は、どこか穏やかで、そして人の心の距離を象徴するような空気をまとっている。
都市の喧騒とはまったく違う、静かな時間の流れが画面から伝わってきて、それが物語のテーマと非常によく調和していた。
こうした空間の使い方も、この映画の魅力のひとつだろう。
ただ、気になった点を二点ほど。
まず撮影監督が日本人だったせいか、ルックが邦画っぽくて、カメラが「絞った」映像という印象を受けた。
もっと天草の映像など、「光」を奇麗に見せてほしかった。
そして、これは一番気になったのだが…。
この映画の宣伝はあまりこの作品の良さを伝えきれていなかった。
残念ながら、よくある洋画宣伝にありがちな、ハリウッド俳優であるブレンダン・フレイザーの稼働によるパブリシティを中心に据えた宣伝方法だっためか、この映画のストーリー、そしてロケーションの素晴らしさを伝えきれてなかった。
そのため、観終わってから逆に「こんなに、いい映画だったのか」と感じてしまった。
まあ、とはいえ、素晴らしい作品であり、こんな話はどうでもいいことなのかもしれないが。
