映画『黒牢城』

正直、黒沢清作品であると知った時、意外であった。
まあ、ちょっと作家性も感じなかったしなあ…。

<ストーリー>
荒木村重は織田信長の暴虐なやり方に反発して謀反を起こし、有岡城に立てこもる。
織田軍に包囲され孤立無援となった城内で、村重は血気盛んな家臣たちを抑えつつ、妻・千代保を心の支えに、城と人々を守ろうと苦心していた。
そんな中、城内で少年が殺害される事件が起こり、その後も怪事件が続発する。
容疑者は密室と化した城内にいる家臣や身内の誰かで、城外には敵軍、城内には裏切り者という状況に、誰もが疑心暗鬼に陥っていく。
追い詰められた村重は、信長の使者として説得に訪れ牢に囚われた天才軍師・黒田官兵衛に協力を仰ぎ、事件の解決に挑む。

現在の大河ドラマ『豊臣兄弟』において、菅田将暉が豊臣秀吉の初代軍師である竹中半兵衛を演じている。
その大河で竹中半兵衛が退場するタイミングとほぼ重なるように映画『黒牢城』が公開され、今度は秀吉の二代目軍師とも言える黒田官兵衛を菅田将暉が演じている。
この偶然はあまりにも出来すぎている。
大河ドラマを毎週見ている視聴者であれば、「次は官兵衛か」と自然に劇場へ足を運びたくなる流れができていた。

しかも本作はカンヌ国際映画祭への出品という話題も重なり、「世界が認めた日本映画」というイメージまで加わった。
黒沢清監督という海外評価の高い映画作家の新作であり、現在もっとも勢いのある俳優の一人である菅田将暉が出演。
さらに歴史ミステリーという一般層にも訴求しやすい題材である。
公開前からニュースや映画情報サイトでも大きく取り上げられ、プロモーションとしては申し分ない環境が整っていたように思う。

もちろん原作が高く評価された作品であることも期待値を押し上げる要素だった。
戦国時代を舞台にしながら、本格ミステリーとしても成立させた作品だけに、「黒沢清がどう映像化するのか」という期待は非常に大きかった。

しかし、実際に観終えた率直な感想は少し違っていた。

これが黒沢清作品であろうか、と思うほど作家性のない作品だったのである。

もちろん完成度は低くない。
映像は見やすく、俳優陣の演技も安定しており、歴史ドラマとしてもミステリーとしても破綻はない。
よく言えば非常にウエルメイドな一本である。

だが、黒沢清作品に期待してしまうのは、そういう「きちんとした映画」ではない。
画面に漂う不穏な空気、人間の心理をじわじわ侵食していくような恐怖、説明しきれない違和感。
『CURE』や『回路』、『スパイの妻』などで見せてきた唯一無二の映像世界こそが黒沢清という作家の魅力だったはずだ。

ところが本作では、その個性が驚くほど抑えられている。
原作を忠実に整理し、歴史エンターテインメントとしてまとめることが優先された印象で、監督が黒沢清である必然性はあまり感じられなかった。

戦国武将たちの駆け引きも、謎解きも、決して退屈ではない。
しかし、それ以上でもない。
「普通に面白い」で終わってしまうのである。

もちろん、このような演出を監督自身が意図した可能性もある。
幅広い観客層を意識すれば、作家性を前面に押し出すよりも、多くの人が楽しめる作品に仕上げるという選択は十分理解できる。
実際、その意味では非常によくできた娯楽映画である。

ただ、一人の黒沢清ファンとしては、もっと大胆で、もっと不穏で、もっと観客を戸惑わせるような映画を期待してしまった。
原作の魅力を損なわない範囲でも、黒沢清ならではの世界観をもう少し味わいたかったという思いは残る。

とはいえ、プロモーション効果は抜群であったようにも思う。
果たしてヒットしているのであろうか?来週興行成績に注目してみたい。