映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』
面白い!素晴らしい!!最高!!!
<ストーリー>
かつては世を騒がせた革命家だったが、いまは平凡で冴えない日々を過ごすボブ。
そんな彼の大切なひとり娘ウィラが、とある理由から命を狙われることとなってしまう。
娘を守るため、次から次へと現れる刺客たちとの戦いに身を投じるボブだが、無慈悲な軍人のロックジョーが異常な執着心でウィラを狙い、父娘を追い詰めていく。
最高だった。
アメリカ映画らしいアメリカ映画だ。
モチーフがメキシコからの移民問題を扱っていることからも、政治的な現代性もありながら、エンターテインメント作品としても上質である。
リアルな暴力と人間の尊厳をめぐる物語の中に、アメリカという国の「矛盾」が確かに息づいている。
派手な銃撃戦や緊張感あふれるチェイスの連続でありながら、観終わったあとには静かな余韻が残る。
単なる移民ドラマでもなければ、単なるアクション映画でもない。
国家、家族、そして人間そのものを描いた力強い映画だった。
監督ポール・トーマス・アンダーソンの手腕は、やはり特筆すべきだ。
私のXで「My Favorite Movies」として紹介した『マグノリア』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』など、彼がこれまで描いてきたのは、常に人間の業と葛藤だ。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』でも、派手な演出よりも、登場人物たちの「沈黙」を描くことにこそ重心を置いている。
銃を構えた瞬間よりも、撃ったあとに訪れる沈黙、そのときの表情にこそ、アンダーソンは人間の真実を見ているのだと思う。
画面の隅々にまで意識が行き届いた構図、音楽の抑制、セリフの間。
どれもが過剰でなく、しかし圧倒的に深い。
彼の映画は、観客に“考える時間”を与える。
アクションを描きながらも、哲学的な問いを投げかけてくるのがアンダーソンの真骨頂だ。
ディカプリオも良かったが、ショーン・ペンの存在感はやはり圧倒的だった。
彼が演じる変態軍人のロックジョーは、アメリカという国そのものの象徴のように見える。
戦場で生き残り、今は国境警備に身を置く男。
彼の目には、守るべきものと壊してしまったもの、その両方が映っている。
ペンの演技は、怒りと悲しみが常に背中合わせで、セリフよりもその“沈黙”が雄弁だった。
あの深い皺の刻まれた顔に、彼の人生の全てが詰まっているようだった。
そして「センセイ」ベニチオ・デル・トロも最高だった。
不法移民のために命がけの活動をしながらも、その余裕ある態度が最高にかっこよかった。
デル・トロの抑えた演技の中に、男としての強さや余裕が垣間見える。
「大人の色気」とはまさにこれだろう。見習いたいものだ…。
私は実写映画はやはり洋画が好きだ。
もちろん『国宝』のような日本らしい題材の素晴らしい作品もある。
しかし作品の題材やテーマとなるものが、世界にはたくさんある。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』は、この日観た二本目の作品だった。
一本目が『火喰い鳥を喰う』を観て消化不良を残していただけに、まあ、その感想を強く持ってしまったのかもしれないが…。
